非情の日
日曜の決勝レース、序盤は面白かったですね。ポールポジションスタートのマルク・マルケスと弟マルケス、ペコ・バニャイアが三つ巴で熾烈なトップ争いを繰り広げるさまは、二輪ロードレースの醍醐味を感じさせるものでした。おそらく、多くの人が気持ちの奥底では、(今回もきっと兄マルケスが勝つのだろうな……)と感じていたであろうとはいえ、地元ムジェロを3年連続制覇したペコが意地を見せてマルケス兄弟を相手にトップを奪いにかかる姿を見ていると、(これはひょっとしたら……)とかすかに思わせないではなかったし、そんなふうに予想のつかない展開が過去にもしばしば発生してきたからこそ、我々は昔も今もレースに魅了されるのでしょう。
レースを戦う本人たちにとってみれば、それはなおさらのことで、「レースは何が起こるか誰にもわからない、だからぼくたちは日曜にグリッドにつくんだ」というニッキー・ヘイデンの端的な名言がすべてを言い表していると思います。この名言は、チャンピオン争いのシーズン最終盤だったエストリルで巻き添え転倒を喫した結果、直近のライバルだったバレンティーノ・ロッシにポイントで逆転されてしまい、最終戦での再逆転はほぼ不可能なのではないかという雰囲気が濃厚になっていたときの囲み取材で発した言葉です。そのときの彼を取り巻く雰囲気は沈鬱で悲痛なものでしたが、それでも笑顔を(表面上は)絶やさず、述べたのがあの言葉です。その2週間後に一縷の希望を繋いで臨んだ最終戦の出来事も併せて想起すると、このなにげない言葉はさらに感慨深い重みを感じさせます。
この日曜の決勝レースでムジェロサーキットを埋め尽くしたイタリアの観客も、まさに「レースでは何が起こるかわからない」という思いを胸に抱いて観戦していた人が多かったのではないかと思います。土曜のスプリントは兄ー弟ーペコ、という順位であったことも、決勝に向けて期待を抱かせる要素になったことでしょう。じっさい、日曜午後2時にスタートした決勝は、兄vs弟vsペコ、の激しいバトルが繰り広げらていたときは、怒号のような喊声が聞こえてきたようにも思います。