イギリスGPあれこれ
さきほどツイッター(いつまでたってもXとは言いたくないですよね)のタイムラインに、アレックス・リンスがシルバーストーンで優勝したレースのショート動画が流れてきました。この週末に向けて盛り上げていこうということなのでしょう。その映像を見てちょっと驚いたのですが、彼が最終ラップの最終コーナーでマルケスを制したこのレース、もう6年も前のことなのですね。パンデミック前年の出来事だからたしかに計算すると6年前なんですが、改めてそうやって数えてみると、そりゃわたくしも歳もとるわけだわ、と思いました。
この年のイギリスGPは走行が始まる前の週前半から個人的な事情で非常に慌ただしくしていて、どちらかというとそれがイギリスでのメインイベントでした。後に『再起せよ』という書籍にまとまるのですが、リズラスズキ時代にチームマネージャーだったポール・デニングに2011年末の活動休止前後のことを改めてじっくり話を聞かせてもらいたいとお願いしていて、そのアポイントをこの週に設定していたのですね。ポールはこのときすでにスーパーバイクチームの監督で、エストリルだったかポルティマオだったかで急遽ワンデーテストをすることになったとかで、当初の予定を少し動かしてガトウィック空港近くのスターバックスで待ち合わせることになりました。話をしたのは1時間程度だったと思うのですが、2011年当時には聞けなかったこともあれこれ明かしてくれて、とても充実した取材でした。
このポール・デニングインタビューの少し前には、じつはダビデ・ブリビオに、共通の友人である某イタリア人宅で晩飯を食いながらいろいろと根掘り葉掘り話を聞いていました。(当時の)スズキチーム現監督と前監督からともに濃密な話を聞くことができて、書籍の芯になる部分が見えてきたので、(未着手の日本人関係者取材がまだ山積みだったものの)自分的にはちょっとひと山くらいは越したかな、という印象がありました。なので、この週末のグランプリはいくつかの定例連載コラムなどに仕事を抑えて少しゆっくり見物しよう……と思っていたのですが、なんせああいう結果になったものですから、決勝レース後は一気に忙しくなりました。しかも、このときのリンスの優勝はスズキにとって2016年のマーベリック・ビニャーレス以来となるイギリスでの勝利、という偶然も重なって、当時の彼らにはかけがえのない特別な一戦になりました。ときに事実というものは、フィクションではとてもなし得ないほどのドラマチックな偶然を演出するものですが、まさしくこの年のイギリスGPは、事実だからこそ人々の心を強く揺り動かした一戦だったといっていいでしょう。同じ意味で、今年のフランスGPもフィクションではとても作り得ないドラマが人々の記憶に強烈に焼き付いたレース、といえそうです。地元のライダーが母国グランプリで勝つ姿は、国籍やメーカーにかかわらず、見ていて気持ちがいいものですよね。