第11回 2025年シーズンのあれこれよしなしごと
日本視点での2025年シーズン最大の注目が小椋藍の最高峰昇格であることは、おそらくまちがいないだろう。とはいっても、昇格初年度からチャンピオン争いや表彰台争いのような無茶な期待をしている人はおそらく少数派で、大半の人々は、小椋がアプリリアのサテライトチームTrackhouse RacingでMotoGPマシンに習熟しながらどこまで健闘するのか、ということを興味を持って眺めている、というあたりではないかと思う。2025年のルーキーライダーはフェルミン・アルデゲル(Gresini Racing MotoGP/Ducati)、ソムキアット・チャントラ(IDEMITSU Honda LCR/Honda)と小椋の3名なので、まずはこのふたりよりも上位でゴールすることがわかりやすい指標のひとつだろう。その少し先のターゲットがポイント圏内入賞、になるだろうか。さらにまかりまちがってシーズン前半にトップテンに入ったりするようなことがあれば、これはもう拍手喝采ものでしょう。
最高峰クラスに参戦するルーキーライダーを2種類に分類すると、最初から圧倒的な高パフォーマンスを期待される選手と、数年かけてじわじわと頭角を現してくるであろうと見守られる選手のふたとおりがあるように思う。たとえばバレンティーノ・ロッシやダニ・ペドロサ、マルク・マルケス、ペドロ・アコスタなどは前者の典型例で、ニッキー・ヘイデンやジョアン・ミル、ファビオ・クアルタラロ、ペコ・バニャイアなどが後者の例に属する。
バレンティーノ・ロッシは昇格初年度(2000)のランキングが2位だった。「自分はルーキーライダーだから、と思いながら戦ったのが敗因で、明確にチャンピオンを目指して一戦一戦に臨むべきだった」と後に語っており、実際にその気構えで臨んでいればひょっとしたらこのシーズンはもっと熾烈な戦いになっていたのかもしれない。だが、たとえそうであったとしても、この年のケニー・ロバーツJrのタイトル獲得は動かなかったと思う。1999年にスズキへ移籍していきなり速くなりランキング2位だったケニーJrが、翌年にさらに安定感を増してチャンピオンになったのは当然といえば当然の帰結だった(ケニーJrとスズキがなぜあのような強さを発揮したのかという背景事情は、拙著『再起せよ』の〈断章・ニレの男〉で詳述しているので、興味のある方はご参照ください)。一方のロッシは優勝と表彰台の獲得回数はともにケニーJrに届かなかった事実を見ても、やはり大きな敵失がなければタイトル獲得は難しかっただろう。